Misia Candle Night 2014

今年で3回目を迎えたMISIA Candle Night 2014。河口湖ステラシアターのエントランス広場には、Candle Night Barが展開され、早々と到着したオーディエンスが思い思いの種類のワインを野外のテーブルで楽しんでいる。ワインの収益でアフリカに蚊帳を寄付する、マラリア予防のチャリティーになっているのがMISIAらしい。他のテントでは、入り口で渡されたキャンドルに火を灯す人たちが、今日のライヴへの想いを隠し切れずに、期待の言葉を交わしている。

僕もキャンドルを手に会場へと入った。ステージ上は、すでにおびただしい数のキャンドルで埋め尽くされている。こんなに美しい“開演前の光景”を見るのは初めてだ。やがてバンドのメンバーが入場し、MISIAが現われたとき、拍手と歓声は最初のピークを迎えた。

8人のストリングスと4リズム、それにバックコーラス“星空のシスターズ”の3人とMISIAを合わせて、総勢16名がまずは讃美歌「Gloria」で音を合わせる。誰でも知っている端整なメロディが、初めて耳にするコードワークで奏でられ、完全にMISIAの世界観に染め上げられていく。アレンジは傑作「THE GLORY DAY」を手掛けた鷺巣詩郎で、いきなり初期のMISIAのストリングスの“進化形”を提示する。MISIA自身も喉は絶好調で、最初の鳥肌が立つ。Candle Nightでは毎回、音楽的発見があるのだが、彼女の中に今ある原点回帰のレベルの高さに驚かされたのだった。

続いてはニューアルバム『NEW MORNING』から「Re-Brain」。コーラスのHanah Springのシェイカーが効果的なグルーヴを刻み、こちらは最新型のMISIAの洗練された姿が確認できた。懐かしさもある「Gloria」と、エッジーな「Re-Brain」 の、たった2曲で会場をすっかり“Candle Night”ワールドに引き込む素晴らしい滑り出しだ。オーディエンスは手にしたキャンドルを捧げ持ち、すり鉢状の客席いっぱいにキャンドルの灯が揺らめいたのだった。

「蒼い月影」のイントロでMISIAが口を開く。「この景色を、みなさんにここから見せてあげたい。今日はみなさんの心の中に、たくさんの火を灯してくださいね」。この言葉に、MISIAの瞳に映るキャンドルの炎が見えたような気がした。圧倒的な彼女の歌声が、あっさり日常を忘れさせてくれる。一方で、電力をはじめとする物 質至上主義の我々の日常を、もう一度考え直してみるチャンスを与えてくれるのが、このCandle Nightだ。音楽の力を信じるMISIAだからこそできるイベントであることを、改めて実感したオープニングだった。

最高のボーカルとサウンドが、充実のライヴを引っ張っていく。富士山のふもとで聴く「眠れぬ夜は君のせい」は、至福の歓び。さらにはベッド・ミドラーの名曲カバー「THE ROSE」は、MISIAとコーラス3人のハーモニー・サウンドが見事に決まって、ここまででいちばんの拍手を浴びていた。「本当に、この3人とは“息が合う”」というMISIAのコメントにも賛同の歓声が上がり、僕はできればこの4人でシングルを出して欲しいと思ったものだ。

「幸せをフォーエバー」の終わりで、会場を覆っていた屋根が開く。涼しい風が流れ込んできて、高まる熱気をちょうどいい温度にしてくれる。見上げれば雲の向こうに月が見える。あまりにもピッタリな“自然の演出”に、会場からため息が漏れた。しかも、終盤に来て、MISIAの声がさらにパワフルになっている。ラストの「僕はペガサス 君はポラリス」で、バンドもストリングスもコーラスも、そしてMISIAの声もピークに達して、今年も充実のライヴとなった。

アンコールは、ドラムのビートから。それに合わせてすぐにハンドクラップが起こる。リズムに乗って再び登場したMISIAは、「久しぶりに歌います」と言って初期の大ヒット「BELIEVE」を歌い始めた。今日のオープニングの「Gloria」と合わせて、15周年を過ぎた彼女が、デビュー以来、どれほどの高みにまで自分の音楽を押し上げてきたかが、手に取るようにわかる。大きなグルーヴと繊細な歌詞の表現が、“新鮮さを失わない実力派”MISIAの現在を伝えてくれた。

アコギと、セカンドライン風のドラムで「One day One life」を情感豊かに歌った後、MISIAの合図でオーディエンスがそれぞれの願いを込めてキャンドルを吹き消す。ラストナンバーは、今回に向けて作った新曲「Candle Of Life」。争いのない世界の実現をキャンドルに祈る歌だ。彼女の願いと音楽が完璧に一致した、大感動のエンディングとなった。

【取材・文:平山雄一】