2015/05/05 東京公演

MISIA“星空のライヴⅧ MOON JOURNEY”レポート

コンピュータを使わずに、ミュージシャンの生演奏を主体に展開される“星空のライヴ”。

MISIAの2015年のスタートとなったシングル「白い季節/桜ひとひら」は生演奏の似合う曲が多く収められているので、今回のツアーは“星空のライヴⅧ MOON JOURNEY”となった。

ゴールデンウィークのせいもあって、17時半に開場すると、オーディエンスが次々と東京国際フォーラムホールAに入ってくる。18時になると舞台袖から二人のアコーディオン奏者が現われて、フレンチ・スタイルの演奏を始めたのだった。

二人は舞台から降りて、会場を練り歩きながら爽やかな演奏を繰り広げる。女性客に、プレゼントを手渡す。オープニング・アクトといった堅苦しいものではなく、ライヴが始まるまでのちょっとした “お楽しみ”なのが嬉しい。途中、「つつみ込むように...」のフレーズがアコーディオンで織り込まれると、客席からの拍手がハンドクラップに変わる。音楽好きの多いMISIAの オーディエンスらしい反応だ。この“音楽の遊び心”に、開演前の心が豊かになごんだのだった。

いよいよライヴが始まる。最新シングル「桜ひとひら」でスタートしたライヴは、「陽のあたる場所」などダンサブルなナンバーが並ぶ。これまでの“星空のライヴ”の中で、最もアクティヴなオープニ ングと言っていいだろう。MISIAは序盤から声を全開にして、熱いコール&レスポンスを投げかける。会場は一気に盛り上がり、オーディエンスは立ち上がって身体を揺らし、声とクラップでMISIAのパフォーマンスに応える。いきなりアンコール・クラスの熱気が会場を包む。

MISIAは “バラード・シンガー”というイメージが強い。そして“星空のライヴ”は、そんなMISIAのバラードを楽しむのに最適なコンサート・スタイルだという認識も強い。しかし、今回は少し違っている。MISIAのもう一方の魅力である、力強いグルーヴを前面に押し出した組み立てになっている。

そんなイメージ・チェンジを裏付けているのは、バンドのメンバーだ。MISIAは常にバック・ミュージシャンにこだわってきた。今回、起用されたドラムのTOMOとベースのJINOは、 歴代のバンドの中でも切れ味抜群のリズム・セクション。彼らのグルーヴを受けて、MISIAが自由自在に歌いまくる。加えてバックコーラス“星空のシスターズ”の3人のうちの一人が、澤田かおりから男性のYUHOにチェンジして低域に厚みが出た。最大の変化は、ギタリストが二人になったこと。ずっと山口周平だけだったところに、若手最注目のギタリスト吉田サトシが加わって、「めくばせのブルース」など、演奏が非常にエモーショナルになった。今回のセットリストの良さを、このメンバーが最大限に引き出す序盤となった。

「ようこそ!最高の一夜にしたいと思っていますので、最後まで楽しんでいってくださいね」と、MISIAが挨拶する。
子供の日にちなんで、「世界のKitchenから」のCMソングである新曲「明日はもっと好きになる」を歌う前に、来場した子供客に「世界のKitchenから」のドリンクをプレゼントしたりしながらライヴは軽快に進行する。ここからのブロックで、ようやくMISIA渾身のバラード「ANY LOVE」が聴けたのだった。

この「ANY LOVE」は、MISIAが 初めてアフリカを訪れ、子供たちを苦しめる貧困を目の当たりにした後に歌詞が書かれた。オーディエンスたちは、今歌われたバラードの余韻 に浸りながら、MISIAの話に耳を傾ける。

「あれから、もう8年になるんですね。その時、感じたことを基にして『ANY LOVE』の歌詞を書きました。大事なものを見失わないで生きていきたいなと思っています。世界には限りがありま す。物質的な豊かさだけを求めると、奪い合うことになります。そして、それは戦争に繋がっていきます」と、MISIAは非常にシンプルな論理で、平和を守ろうと訴えた。会場を埋めた30~40代のオーディエンスたちは、MISIAのこれまでの活動や音楽とリンクしたメッセージを、真摯に受け取っていた。

「私たちの願いや音楽は、百年後も残る力があると思います。だから、私は想いを乗せた歌を歌い続けていきたいです。今年に入り、そう思わせてくれる素晴らしい曲に出会いました。まだレコーディングしていませんが、今日、ここにいらした皆さんに聴いて欲しいと思います」とMISIAは言って、未発表曲の「花」を歌い出した。バックはアコースティック・ギターとピアノのみ。あせらずに自分を大切にしようという素直な言葉が、明るいメロディに乗って届けられる。初めて聴く歌なのに、しっかり言葉とメロディが伝わってきた。

最新シングル「白い季節」や最新アルバム『NEW MORNIG』からの「Re-Brain」と、懐かしい「Color of Life」が、バランスよく並ぶ。終盤は再びグルーヴィーなダンス・ナンバーが続く。途中、MISIAのライブでは珍しく、S・ワンダーやJACKSON 5のカバーが飛び出すなど、MISIAもオーディエンスも一緒に楽しめる流れだ。だが、カラフルなエンターテイメントの中に、前向きなメッセージを詰め込んだ「HOPE&DREAMS」などがしっかり置かれているのはさすがだ。低域が補強された今回の3人のコーラスは、ゴスペル色を強めていて、そうしたメッセージにリアリティを与えていた。

MISIAはアンコールで、「もう1曲、ぜひ歌いたい歌があります」と言って、再び未発表曲の「流れ星」を披露した。これもまた素直なメロディとリリックを持つ歌だった。

テクニックには定評のあるMISIAが挑むシンプルな歌のアルバムがこの後に待ち受けているのだろうか。さらには、今回の切れ味勝負の“星空のライヴⅧ”と、MISIAのバージョン・アップは止まらない。ツアーは8月まで続く。

(文:平山雄一 / 写真:田中雅也)